トロデーン城に起きた惨劇。
その原因を突き止めるため、
そして、モンスターになってしまった王と馬になってしまった姫の呪を解くために、
エイトは旅に出た。
旅は困難ではあるが、エイトにとっての一番の困難は「旅」ではなかった。
旅の途中で出会った、ククールという男。
こいつこそが、エイトを悩ませてやまない原因だったのだ。
実のところ、2人は相思相愛というものではあるが、
ククールの性格がいけないのだろう。
元々女に目がないククールは、すぐに女に声をかける。
それが、エイトを悩ませているとも知らずに・・・。
夜。
今日は山中真っ只中で夜になってしまい、仕方なく野宿になってしまた。
エイトは皆が寝ているため、離れたところで木に背を預け、空を見上げていた。
「・・・・はぁ」
ため息の1つくらい、つきたくもなる。
今日もククールはナンパをしていた。
気に入らない。
ククールは本当に自分を好きでいてくれているのだろうか?
疑いたくないのに、どうしても疑ってしまう。
ナンパばかりするククールは嫌い。
でも、そんなククールを信じてあげられず疑ってしまう自分は、もっと嫌いだった。
「僕も、女の子だったら良かったのかな・・・」
ついそんな事をもらしてしまう。
だが運悪く、一番聞かれたくない相手に聞かれてしまった。
「お前が女?」
噂をすれば何とやら・・・というものか。
声の主は、エイトの悩みの種、ククールだった。
「ククール・・・」
「何意味分かんねぇこと言ってんだ?」
「・・・・・別に」
(意味分かんねぇ・・・って、誰のせいだよっ)
身勝手で能天気な男だ。
だが、たまに見せる淋しそうな表情を見ると、
どうしても優しくしてしまう困ったエイトだ。
「何してんだ?みんな寝たぞ」
「分かってる。星を見てたんだ」
「星?」
「うん」
実はエイトは、毎晩こうして星を見てから寝ていた。
「小さい頃、夜の暗さが恐くてなかなか眠れなかったんだ。
でも、空を見上げたら星が光ってて。
キレイだなぁって思って、夜は必ず星を見てから寝てたんだ。
それがクセみたいになっちゃって、今もそうしてから寝てる。
ま、元々夜空が好きだしね」
「ふーん・・・」
ククールは、曖昧な相槌を打ちながらエイトの話を聞く。
「ククールは?どうして起きてたの?」
「いや?どっかの誰かさんの姿が見えねぇなぁ・・・と思ってさ。探しに来た」
「いちいち僕を探してくれてたんだ。ごめんね。一言言っておけばよかったね」
「別に大したことじゃねぇし。どうせ気の小さいエイトのことだいから、
いなくてもそんな遠くへは行ってねぇだろうと思ってたしな」
からかいがちにククールは言った。
エイトは真に受けてしまい、可愛らしく頬をふくらませる。
「ほっとけナンパ野郎!!」
子供っぽく怒るエイトを見たククールは、思わず笑ってしまった。
当然エイトは余計怒ってしまう。頬をわずかに紅潮させて。
「なんだよ!何笑ってんだよ!」
「悪い悪い。ただな、可愛いなーと思っただけさ」
「・・・・っ」
(このキザっ!!!)
赤く染まったエイトの頬に、軽く手を添えて、ククールは慣れた口調で言った。
エイトは大人しくなったが。
エイトは、ククールの手に頬を包まれるのが好きだった。
ククールはそれを知っていて、エイトの頬に触れたのだ。
「ねぇ・・・ククール」
「ん?」
「・・・・・・・ククールはたくさんの女の子と僕と、どっちが好き・・・?」
「えっ」
聞きたかったことを聞いてみたものの、エイトは気まずくなって俯いた。
ククールはエイトを抱きしめた。
「今日も・・・ククールは女の子を誘ってた・・・」
「エイトはヤキモチ焼いてんのか?」
「ちっ違うよ!!そんなんじゃ・・・・別に・・・・そんなんじゃないけど・・・」
明らかに態度でそうだと言っているのに、あえて認めない。
ククールはエイトのそんなところが無性に愛しいのだ。
ククールは顔を真っ赤にして言いわけをするエイトを、
先ほどよりも力をこめて抱きしめた。
「俺は当然エイトの方が好きだぜ。だいたい種類が違うんだよ。
女の子が好きっていうのは"Like"だ。お前が好きっていうのは、"Love"だ」
「ククー・・・ル・・・」
エイトは恥ずかしがりな性格のため、
たまにククールが言うこういう真っ直ぐな愛を受け止めるのが苦手だった。
実際、今も困ったようにククールの肩に顔をうずめている。
「ごめんな。エイト」
「え?」
ククールの突然の謝罪に、エイトは更に焦ってしまう。
「お前の性格を分かっていても俺がこんな性格だから、お前・・・不安だったんだな」
「・・・・・・・・僕は・・・僕はね、ククール・・・」
「ん?」
「僕は、ククールが好きだよ」
エイトは顔を上げ、真っ直ぐククールを見つめて言った。
ククールは微笑んで、エイトに優しくキスをする。
「あぁ。知ってる」
エイトも微笑んだ。
翌朝、一行は山をこえるため、足早に山中を歩いていた。
しかし山中となると、普通の道よりもモンスターが多く出現し、
なかなか思うように前へと進むことができない。
「もーっ!何だってのよぉ!!」
赤系色の髪の毛を両方に結い、可愛い顔をした、
一行唯一の普通の(なのか?)女の子、ゼシカが叫んだ。
それというのも、先ほどから連戦中なのだ。
ゼシカでなくとも叫びたくなるのも無理はない。
「まぁまぁ落ち着いて。ゼシカ」
エイトがゼシカの怒りを静めるように言う。
「落ち着いてなんていられないわよ!!何だってのよこの山は!!モンスターの塊!?」
「だがなエイト。そう言っても過言じゃねぇくれぇモンスターだらけだぜ」
「そうでがすよ兄貴。早いとここんな山抜けちまいましょう!」
ククールと、自称エイトの子分のヤンガスもゼシカの不満に賛成した。
もちろんエイトも、こんなところ早く抜けてしまいたい。
だが・・・・・。
(・・・・・・どうしよう・・・ヤバイな・・・)
「・・・・エイト?どうした。そんな顔して」
俯き、思いつめたかのようなエイトの表情を伺っていたククールが声をかけた。
「べ・・・別に何でもないよ!早く行こう!!」
「・・・・・・・・・」
何でもない・・・と言うわりには、様子がおかしかった。
(・・・・・・・・・なるほど。ったく、世話の焼ける・・・)
「エイト!」
「何?ククール」
「ほら。乗れ」
「えっ」
ククールはエイトの前で腰を下ろし、背中を向けた。
「お前、足を怪我してるんだろ?」
「・・・・・・・・・・うん」
「そういうことは、ちゃんと言えって言ったろ?何でいつも隠す」
おんぶされながら、エイトはククールの背中に顔をうずめる。
「・・・・だって、みんな心配するし・・・・ククールも・・・心配・・・・する」
「ったり前だろ。俺はお前のこと愛しちゃってんだからな」
笑いながらも愛を語るククールは、器用な口をしているとエイトはいつも思う。
ただ、たまに気まぐれで言うものだから、信用しがたい部分を感じてしまうのだ。
(イヤなのにな・・・こんなの・・・)
「ねぇ、エイト」
エイトの表情から雰囲気を読み取ったゼシカが、
雰囲気を良くしようとするように明るく声をかける。
「な、何?ゼシカ」
ぎこちない笑顔でエイトは答えた。
「きっと今日はちゃんと宿に泊まれるわ!だから、そんな暗い顔しないの!
野宿がイヤなのは分かるけどね」
「そうでがすよ、兄貴!」
(もしかして、分かっちゃったのな・・・?)
「何だぁ?エイト。俺がおぶってやってるっていうのに、暗い顔なんかしてんのか?」
ゼシカに励ましてもらい、気がまぎれたときにククールに声をかけられたエイトは、
少し反撃に出た。
「そうだよ!ククールの髪の毛が邪魔でしょうがないんだもん!!」
「な・・・っ!」
ククールは当然怒った。
密かに自信があった銀色の髪の毛なのだ。
「そうねー。
たしかに、おぶられてる側からすれば、邪魔かもしれないわねぇ。その馬のしっぽ」
ゼシカは笑いながら言うが、
ククールはそれをヒントのように、髪をとめているリボンをほどいた。
「そうかよ。だったらほどけばいいんだろ?」
「え?」
予想外の展開に、エイトもゼシカも、
トロデと話をしていたためよく話が分からないヤンガスまでもが驚いた。
何せ、エイトは半分はからかっていたのだから。
「どうだ、エイト。邪魔じゃないか?」
「 あ・・・・・うん」
「髪が邪魔だなんて理由でおりられたら困るからな。
山ぬけるまで、これで我慢してくれ」
(・・・・・・・ククールが・・・・・ククールが・・・・)
「ククールが優しいなんて、気味悪いわね」
エイトが心の中で言う前にゼシカがエイトが思っていたことを口にする。
「失敬な。俺はエイトにはいつも優しいぜ」
「エイトには・・・なのね」
「え・・・・」
エイトは思わず不満をとなえた。
「・・・・・何だよ」
「いや。ククールってそんなに優しくしてくれてたっけ?と思って」
「何だ何だ?俺の愛情はエイトには伝わってなかったっての?
まぁいいさ。そのうち分かるだろうよ」
「別に結構です」
「あ?」
「いや」
何だかもう周りが2人の世界化してしまっていた。
(バカップル・・・なのかしら?)
ゼシカがそう思わずにはいられなかったなんて事は誰にも言えないが。
どうやらあの山はそうとう立派な山だったらしく、
ぬけるのにほぼ半日はかかってしまっていた。
プラス連戦のせいで、一行は疲れきっていた。
日も暮れてきていたため、エイトたちは山をぬけてすぐにあった町に泊まることにした。
「はー・・・。疲れたわー」
「モンスター、結構強いやつ多かったしね」
「でもその分、強くなってるんじゃねぇの?」
「それはそうよ。でも、私基本的に疲れるって嫌いなのよ!
おかげで今日は良く眠れそうだわ」
「そうだね。今日は早く寝た方がいいかも」
「俺はカジノに行ってくる」
「また行くの?ククール」
「あぁ。気分転換みたいなもんさ。エイトも行くか?」
「え・・・」
「たまには行こうぜ。気晴らし気分でさ」
「そうね。エイトはいつも私たちのこと優先にするから、
たまには自分のことも考えて、遊んできたら?」
怪我の治療をするにも仲間優先、
食事をするにも仲間優先のエイトは、一行の中で一番疲れやすかった。
「・・・・うん。じゃぁ行くよ」
エイトは頷き、ククールと共に宿を出た。
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