蒼様より。




この髪は絶望の色



だから伸ばし続けているのかも知れない











髪結い紐











「ヅラぁ」

「ヅラじゃない桂だ」

「小太郎」

「何だ晋助」







いつの間にやら人の家に上がりこんだ男は、

部屋の窓から外を見ながら、

人の顔も見ず、用も無げに自分の名を呼んだ。







「お前もこっち来いよ」

「嫌だ」

「俺とお前の仲だろう」

「どんな仲だ、どんな」

「つれないな、苦楽を共にした仲だろが」







そう言うと高杉は喉の奥でくつくつと哂った。

漸く沸いた湯を急須に入れると、茶葉の香りが湯気と共に顔に当たる。







「茶はまだかよ」

「お前は何処までも我儘だな」







呆れた顔で高杉の方を見るが、

やはり彼は此方を見てもいない。

軽く溜息を吐き、お盆に自分の物と来客者用の湯飲みを載せ、

居間へと運ぶ。

その動作にちらりと一瞥をしたが、やはりすぐに窓の外に目をやった。







「何かあるのか」







湯飲みにお茶を注ぎながら問うた。







「別になんもねぇよ」







やはり一瞥もくれはしない。

此方に茶を飲みに来る気も無いのか、

仕方なく一番最寄りの辺りに湯飲みを置く。









今や、

自分と対等と呼べる同志は高杉を置いて他にはいない。

銀時も坂本も、

もう自分とは道を違えた。

けれど、

目の前の高杉の胸中はいつまでも分からないままだ。

時折、

気紛れの様に現れては、風の様に消え行く。

普段は何処に住んでいて、誰と共に居るのかすら知らない。



高杉は危険だとよく耳にする。

それはある意味で正解で、

ある意味で不正解だと思う。







「ヅラぁ、茶持って来て」

「自分で取れ」

「めんどくさいだろが」

「絶対持っていかないからな」

「桂」

「何だ」

「今日も綺麗だな」







いきなりの言葉に顔が赤くなる。

此方を見ている高杉が哂っている。







「空がだよ馬鹿」







負けたと思った。

仕方なく湯飲みを手に取り、立ち上がる。

高杉はまた外に目を戻していた。







「ほら」

「ありがとよ」

「何があるんだ」

「別にねぇって言ったろ」







実際自分でも目をやるが、

普段と何も無い変化の無い風景が広がっている。







「お前の顔見たくねぇんだよ」

「は?」

「てめぇ見てると苛々する」







何も返す言葉が浮かんで来ず、無言が辺りを包む。

傷付いたと言えば傷付いたのかもしれない。





ただじっと高杉を見つめていると、

不意に彼の手が自分の髪に触れてきた。







「切っちまえよ」







殺気に満ちた目で髪を睨みつける。







「いつまでもダラダラあいつ等の事引き摺ってんじゃねぇよ」

「高杉…」

「だから苛々する」







ぱっと離されると、胸元にはらりと髪が広がる。

その刹那、

高杉と視線が交わる。

何処か寂しそうな、傷付いたような瞳は一瞬で窓の外に戻った。







「不味い茶…」







一口茶を口に含むと、湯飲みを人に押しつけ立ち上がった。

そして、何も言わないまま戸口へと歩き去る。

仕方なくその後ろに続く。

扉を開け出て行こうとした、その時

高杉が振り返った。







「あの白い化物はどうした」

「化物じゃないエリザベスだ」

「どうでも良い事だろ」

「良くない。彼女と逢引中だ」

「ふーんあんなに女が居る訳か…」

「あんなのとは何だ。」

「あんな奴見限って独り者になれよ」

「お断りだ」

「そしたら、俺が此処に住んでやるぜ」







また、くつくつと哂い外へと出る。







「また来る」







そう振り返らないまま、片手を挙げ、

彼は人ごみの中へと消えて行った。







「顔見たら苛々するのだろ…」







そう一人ごちながら戸を閉め、

屋内へと戻った。

残されたのは彼の飲み射しの湯飲みだけ。

それ以外に彼が居た気配は微塵も残らない。





高杉は危険だ。


けれど、誰よりも優しいのだ。


自分がいつまでも縛られた事を知っているのだから。





そっと、


彼の湯飲みを握り締めた。





彼の為に新しい湯飲みを用意しておいたら、


何か言ってくれるだろうか。


否。


何も言いはしないだろう。





そんな事を考えた自分に苦笑しつつ、


次の茶葉は少し高めの物にしようと画策した。































▼戯言。

相棒こと蒼さんより高桂SSでした。

もうね。これ素晴らしく良いお話なんですがね…うん凄く切ないというかそういう話なんですが…

エリザベス高杉が頭をチラホラしてまともに読めなかった。

ヤツの幻影が完全に拭えた時にまた読み返してみたいと思います!
何気にエリザベスVS高杉に見えた自分に反省です。

それでは、素晴らしいSSをありがとうございました!